初めまして、もしくはこんにちは。
Talefactoryの池村匡哉と申します。
フリーランスのゲーム開発者です。
ゲーム開発歴は会社員として企画職でコンシューマ開発13年と、スマホ開発1年、フリーランスで5年になります。
そんな僕が、Genvidを使ったゲーム開発について、自身の体験を元に書き起こしてみます。
野毛の飲み屋さんでGenvidと出会う
はじまりは2019年の夏。
横浜の野毛で、Genvidという製品を知りました。
それから約1年、試行錯誤からデモの実装してまでを思い出しながら、Genvidでのゲーム開発の一例をお伝えしようと思います。
──で、野毛です。
横浜駅からほど近いところにありながら、沖縄の市場にも似た雰囲気がある、不思議な街です。
CEDEC会場に近いので、ゲーム開発者の皆さまにもよく知られた街かもしれません。
ここで開発者仲間と野毛会というのをやってまして、集まっては飲んだり飲んだりしていたのでした。
あるときにGenvidのジョンソン裕子さんがお越し下さいまして、説明をしていただいたのです。
どこに介入するか?
飲み会の帰り道、地下鉄に揺られながら。
「シンラ・テクノロジーのメンバーが作った会社」「クラウドゲーミング」、というワードと共に「ゲームに介入できる」というのが印象に残っていました。
つまり視聴者がゲーム配信を見ながら、ゲームにちょっかいを出したり、アイテムを投げ込める!
何それ面白い!
そこで、Genvidを使ったらどんなゲームができるか妄想をはじめたわけです。
「ゲームに介入」から最初に想像したのは、ライブの演者と観客のイメージです。
音楽のライブではコール&レスポンスのような、演者と観客のやりとりがあります。
この距離をもう少し近づけて、
【舞台に飛び入りしちゃう観客がいる】
ですとか、あるいは、
【舞台に花とかプレゼントを贈る観客がいる】
という風景が浮かびました。
しかし、よく考えてみるとこれは、リアルで同じ場にいるからこそ可能です。
オンラインライブでも近いことができるようになっていますが、ゲームとなると考えることが増えます。
ゲームはプレイヤーと視聴者が(リアルで)同じ場所には居ません。
テレビ番組と視聴者の関係と近いです。
ただゲームはインタラクションという強力な武器があり、それを【ゲーム – プレイヤー】から【プレイヤー – ゲーム – 視聴者】と拡張できるのがGenvidではないか、という認識を持ちました。
それから「介入」には種類があるはずです。
A.ゲームシステム、メカニクス自体に介入する方式
A-1. ゲーム結果に影響を及ぼす(追加のプレイヤーとして参加)
A-2. ゲーム結果に影響を及ぼさない(観戦者として参加)
ライブの例で言うなら、観客が舞台に上がって演者と一緒に演奏を始めるイメージです。
プレイヤー以外の人が、プレイヤーとほぼ同等の手段をもって介入するゲームですね。
この時点では、これは少々難易度が高いかな、と思いました。
Genvidでできること、できないことがまだ理解しきれていなかったためです。
そこで、メカニクスに直接関わるような以外の介入は何が考えられるか、にシフトしてみました。
ライブのコール&レスポンス、拍手、プレゼントを渡す、みたいなイメージです。
考えたのは以下の2つです。
B. ゲーム内情報(戦況、パラメータ等)の取得
C. 応援/声援を送る
C-1. ゲーム結果に影響を及ぼさないエフェクト等を送る(応援等)
C-2. ゲーム結果に影響があるアイテム等を送る
こちらはすぐに、ゲーム画面の想像がつきました。
「くにおくん」シリーズの「熱血行進曲」のプレイ体験を思い出したんですよね。
僕の(デジタル)ゲームの原体験は任天堂の「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」です。
ファミコンの人気シリーズの1つに、テクノスジャパンさんの「くにおくん」シリーズがあります。
同世代なら、「ダウンタウン熱血行進曲」で友達と遊んだ方も多いのではないでしょうか。
「熱血行進曲」には、4人でプレイできる障害物競走があります。
街を走り、落ちているタイヤや木の棒で他のプレイヤーを妨害しながら、ゴールを目指すモードです。
このプレイを動画配信して、視聴者がお邪魔アイテムとか回復アイテムをゲームに投げ込んだり、何なら地形を変化させたりできたら楽しそう!という想像をしました。
ハチャメチャな状況を楽しむゲームで、それほどシビアな勝ち負けが着かないゲーム。
そこへ、さらに盛り上げる「介入」という要素。なにかできそうです。
そこで帰宅後、ジョンソンさんの話を思い出しつつ、(ゲームデザイナーにはおなじみの)カイヨワの遊びの分類4個を軸に整理してみたのが以下の図です。
主なジャンルと想定した介入は、筆者が当てはめてみたものです。
介入から最初にたどりついたのが「熱血行進曲」で、ではこれはどれなのか。
アクションゲーム+「アレア(偶然)」のゲームかな、と考えました。
介入って、プレイヤーにとっては「偶然」の要素が強いと思ったんですよね。
「割り込み」みたいなイメージを持っていました。プレイヤーにとって想定外の割り込みです。
しかもそれが「楽しく」ある必要があります。
ファミコンの「熱血行進曲」はプレイヤーしかいませんが、友達が5人とか集まると、順番待ちの見ている子が出てきます。格闘ゲームのセッションで順番待ちしてるようなイメージです。
当時は子どもなので、遊んでいる子にちょっかい出したり(くすぐったり目隠ししたり!)して、それも楽しかったんですよね。これってまさに「介入」かなと思いました。
──ですが。
ゲームに介入できるからといって、無制限に介入されたらゲームが崩壊するのは容易に想像できます。
小学生が遊んでいる「熱血行進曲」だって、ちょっかいが過ぎたらリアル乱闘になってしまいます。
つまり、介入には「悪意の介入=ネガティブ介入」と「善意の介入=ポジティブ介入」がある、ということです。
さらに「介入」はプレイヤーと視聴者のインタラクションになります。
そこには善意で「つい」応援したくなる、「つい」手を出したくなる状況を用意することが大事です。
そこでふと思ったのは、ドリフターズのコントです。
特に志村けんさんの「志村うしろー!」って状況です。ピラミッドのコントで、志村さんの後ろにミイラ男が現れて、でも志村さんは気づいてない、というシーンですね。
これが作りたい。
で、コントと相性が良いのは、プリミティブな遊びでは、と考えました。
パッと見て何するか分かり、つい参加したくなるようなもの、です。
さらに、ゲーム世界にいることが楽しく、勝ち負け以外の楽しむ軸があるものが合いそうと思いました。
勝ち負け(競争)はもちろん楽しいのですけれど、勝てない=つまらない、となりやすいです。
練習して強くなった嬉しさは格別ですが、参加への敷居が上がります。
そうなると、つい手を出したくなる=介入する、となりにくくなります。
ゲームを遊んだり作ったりしていく中で「負けても悔しくないゲーム」「負けても楽しいゲーム」があればいいなと思っていまして。それはゲームの仕組みで用意できると考えています。
勝ち負けを競うよりも、その場に参加すること自体が楽しいゲーム。
それが、Genvidの「介入」という仕組みで実現できそう、と感じました。
この時点でゲームの立て付けは、以下のようなものをぼんやりとイメージしていました。
- 遊び/体験は「鬼ごっこ」のようなプリミティブなもの
- ドリフの「志村うしろー!」のシーンがクライマックスシーン
- 全体で一つの「劇の公演」をするイメージ
- 勝ち負けよりも「その場に参加していること」が楽しくしたい
- プレイヤーは演者で、視聴者は舞台を見ている観客
- 観客の声は演者に聞こえる
- プレイヤー<演者>は、ゲーム世界の中にいる
- 視聴者<観客>は、ゲーム世界を俯瞰してみている神のイメージ
書いていて気づいたんですがこれって、Play by Mail Game(PBM/メイルゲーム)の作りなんですよね。
PBMには20年前にマスターとして参加していたので、その体験は今でも活きている気がします。
この時のアイデアの断片は、コンセプトとして残り、デモを作るゲームへと繋がっていきます。
要するにやりたいことは「志村うしろー!」なのでした。
配信者、視聴者と開発者が繋がる
妄想から数週間。
Genvidの資料を読み進めていったり、説明を受けたりしながら、構成を理解していきました。
当時僕は、Genvid=クラウドゲーミングとか、Genvid自体が動画配信を行う、と認識していました。
実はそうではない、ということに気づくまでのお話しです。
Genvidが実現する「新しいエンタメ」は「インタラクティブ・ストリーミング」と名付けられています。
「大規模インタラクティブ・ライブ・イベント(Massive Interactive Live Event: MILE)」というキーワードと共に示されるこれは、「クラウドを活用し、大人数の視聴者が同じコンテンツに介入していくことでドライブされていくイベント」と説明されています。
このインタラクティブは、3段階に分けられていました。
しかも、介入以外のGenvidの要素についてきちんと説明されています。
(最初からこれをきちんと見ておけば良かった……と後から思いました)
この図で「プレイヤーと視聴者のインタラクション」というのは一番上にあります。
最初は「Tier3:情報の表示」なんですよね。視聴者の画面(Twitch等の配信サイトのUI上)にゲーム中の情報やデータをリアルタイム表示できる機能です。
これはほぼジャンルを問わず組み込めます。
つまり。
Genvidってゲームと配信画像の間に入って、視聴者からのインタラクションの処理をするんですね。
視聴者はTwitch、Youtube(2021年現在Facebookにも対応済み、近日中にHuya等にも対応予定とのこと!)の動画配信サイトで視聴することになります。「Genvidという動画視聴サイト」はありません(あると思ってました)。
ここでようやくGenvidは「ゲームを配信して、視聴者がゲームへ介入する」という、この「配信」と「視聴者が」が大事だ、ということに気づいたのでした(遅い!)。
介入するのが(ゲームを所有していない)視聴者なのは理解していたのですが、ここで大事なことは、「配信動画に視聴者が介入し、そこに課金が発生することで、開発者にも届く」という点です。
ゲームソフトの開発費は高騰していて、回収の難易度が上がっています。
そんな中、ゲームの配信を通じてその存在を拡げて頂けるのはありがたいことです(ほんとうに!)。
ところが、どんなに配信され、そこに広告などのお金の流れが発生しても、開発には入りません。
配信では大人気なのに、ゲームソフトはさっぱり売れない、なんて状況が起こりえます。
ここで「ゲームの配信に介入することでゲームを楽しめて、そこにお金が発生し、それが配信者と開発者に届く」という状況は理想的だと感じました。
好きなゲーム、配信者、プレイヤーを応援して、開発者にお金が入り、続編やコンテンツが作られる!
ゲームを介した経済が変化するのではないかと思ったのです。
あるタイトルに関わるプレイヤーはもちろん、配信者、配信の視聴者、そして開発者と、関わるみんなが幸せになれるシステム、次のマネタイズなのではと考えました。
加えて、ゲームプレイ以外でゲームにゆるく参加できるというのは、肌感覚ではありますがニーズがあると感じていました。
ガチでゲームするほどでもない、上手ではないから自分には無理、でも他人のプレイを見てるのは楽しい。
なんかいけるのではないか、と感じたのは、2019年の秋頃の話です。
Genvid企画を作ってみた
ここまで考えたあたりで、走り書き程度に、実際にゲームアイデアを書きだしてみました。
書くのたいせつ。形にすれば、セルフツッコミできますしね。
ゲームの骨子は、先に考えたものを使うことにしました。
- 遊び/体験は「鬼ごっこ」のようなプリミティブなもの
- ドリフの「志村うしろー!」のシーンがクライマックスシーン
- 全体で一つの「劇の公演」をするイメージ
- 勝ち負けよりも「その場に参加していること」が楽しくしたい
- プレイヤーは演者で、視聴者は舞台を見ている観客
- 観客の声は演者に聞こえる
- プレイヤー<演者>は、ゲーム世界の中にいる
- 視聴者<観客>は、ゲーム世界を俯瞰してみている神のイメージ
- 配信ターゲットはTwitch
- ゲームエンジンはUnity
「志村うしろー!」という状況を作りたい、いわばツッコミ発生装置としてのゲームです。
プリミティブな遊びをベースに、アレア(偶然)とイリンクス(非日常)を入れ込んで、ペライチで3案作ってみました。
プリミティブな遊びは、海外の「鬼ごっこ」のバリエーションから持ってきています(海外の鬼ごっこやかくれんぼって、ゲームの元ネタにできるものがたくさんあります)。
動画配信のプラットフォームは、(2019年時点では)先述の通りTwitch、Youtubeがありました。
ここでは、ゲーム配信プラットフォームであるTwitchを想定して考えました。
Genvid SDKの中にTwitch Extensionサンプルがあったので、それを見られるのもメリットでした。
開発はUnityの想定です。
※ちなみにGenvidは、UnityとUnreal Engine4向けのSDKが配布されています。
で、以下がその企画メモです。
この時念頭に置いていたのは、下記の4点です。
- プリミティブな遊びをベースにする
- 「つい」を発生させる状況を作るためのゲームデザイン
- 介入要素を2段階用意する
- 介入されたときの【理不尽さ<楽しさ、愉快さ】をなにで置くか
しかしここでもまた、大きな見落としがありました(見落としてばっかりです)。
ジョンソンさんからご教授頂いて気づいたのですが、Genvidを使う=ネットワークを使う、です。
通信するからには、とうぜん遅延が発生します。
ゲームサーバとプレイヤーの間にも発生しますが、Genvidでは間に挟まるサーバ・回線が、他のゲームと比べて多くなります。
ポイントは、視聴者の介入がゲームに届くまでの時間です。
介入は、Twitchの画面にオーバーレイされたGenvidのUIから行われます。
視聴者がGenvidのUIでボタンを押すと、それがサーバを経由して「genvidサーバ上で実行されているゲーム」に届き、他のプレイヤーや視聴者の介入が処理され、生成されたゲーム結果が「動画としてエンコードされ」、Twitchのサーバを経由して視聴者に届きます。
視聴者のインタラクションはこの経路を辿るため、介入からそれがゲームに反映されるまでにラグが発生します。
将来、レイテンシの向上やサーバの能力向上で改善されていくことは間違いありません。
実際Twitchも、2018年に低遅延モードが実装され、ラグは改善されています。
とはいえゼロにはなり得ませんし、2019年時点では、3〜5秒のラグを想定して設計する必要がありました。
開発者は体感している通り、ネットワークは水モノです。
視聴者、プレイヤーの回線状況、サーバの負荷やiDCの回線混雑など、あらゆる影響で遅くなります。
この企画では、ラグをざっくり「10秒」と想定して設計することにしました。
もちろんコレ、ゲームデザインによります。
対戦格闘ゲームでは、ネット対戦で10秒もラグがあったらゲームが成立しません。
ここでは逆で、「10秒のラグがあっても成立する介入、インタラクション」という縛りにしました。
10秒で成立できるように設計できれば、3〜5秒のラグなら余裕で実装できます。
将来レイテンシやラグが改善すれば、さらに楽になりますから。
しかし10秒。600フレームです。
「志村うしろー!」は、数秒ズレまでは許容できますが、10秒ずれると厳しいです。
ではどうするか──ということで、もう一度企画を考え直すことにしました。
数秒後の世界で遊ぶ
ジョンソンさんの言葉を借りると、Genvidで視聴者が見ているゲーム画面は「数秒前の世界」です。
その時点の情報を見たり介入したりしても、ゲームは数秒未来の世界で進行していますから、ズレます。
HPが無くなりそう!というときに、ゲームに回復役を投げ込んでも、間に合わないです。
回線の混雑等で遅延が増える状況は容易に起こります。
その時にゲームが破綻してしまっては当然いけません。
「数秒の遅延があっても面白い、意味のある介入」を考えること──それが、Genvidでゲームを作る時の1つのポイントだと思います。
ここでまた、最初の頃に考えたコトに戻りました。
A.ゲームシステム、メカニクス自体に介入する方式。
A-1. ゲームの結果に影響を及ぼすもの
A-2. ゲームの結果に影響を及ぼさないもの
B. ゲーム内情報(戦況、パラメータ等)の取得
C. 応援/声援を送る
C-1. ゲームの結果に影響を及ぼさないアイテム等を、ゲームに送信する
C-2. ゲームの結果に影響があるアイテム等を、ゲームに送信する
この中で、リアルタイムでなくても成立するものは、と考えると、やっぱりC→Bの順になります。
究極ぜんぶゲームデザインによる、という答えになるのですが、手軽にGenvidの動くところが見たかったので、思いつく方向から考えてみました。
情報の表示、応援は数秒ずれても意味がありそうです。
それプラス、なんらかゲームに介入したいと考えて、やろうと決めたのは以下です。
- 連続で送ってもゲームが破綻しない必要がある
- 消費型の爆弾など、使うタイミングをプレイヤーが選べるもの
- 送ったらすぐ発動するモノはNG
- 回復などの、使うタイミングがシビアなモノもNG
つまり、戦況が高速で変化しづらいゲームに、タイミングが重視されないアイテムを用意して視聴者の任意で介入してもらう、です。
ここまで、Genvidの企画を試行錯誤して気づいたことが3つありました。
- Genvidがあって120%、なくても100%の面白さ、と考える
- ネガティブ介入ではなくポジティブ介入
- みんなで参加でき、「つい」手を出したくなるような設計
これらを踏まえて、「Genvidでないとできない体験」を考えていくことにしました。
この頃、ジョンソンさんからUnity向けのGenvidゲームサンプル「TANK」(2021年現在、Genvid公式ページからダウンロードできます)や先行して開発されていたタイトルを見せていただくことができまして。
それらも参考に、インタラクションのタイミングや内容を検討しはじめました。
デモの制作へ
そして、2019年の秋。
少し肌寒くなってきた頃、野毛の「千花庵」にて。
※このお店、野毛で飲み歩いて〆で来ると、とてもとても幸せになれます。
ハーツテクノロジー株式会社の大和さんにお声掛けいただき、実際にゲームを形にしていくことになります。
プロデューサーの「お祭り」「おみこし」というコンセプトが示されて、そのゲームはデモが動作するところまでたどり着きます。
動かすと分かること、気づいた可能性などたくさんありましたが、なによりお伝えしたいことが一つ。
それは、Genvidでゲームデザインの幅が拡げられる、ということです。
その拡がりは、プレイヤー、開発者、視聴者と、コレまでのゲームからさらに一段大きなコミュニティを作る可能性があります。
次回は、仮の企画をブラッシュアップし、デモを動かすまでの経緯と試行錯誤について書いてみようと思います。